知られざる皇室外交

どんな本?

元毎日新聞記者、編集委員、皇室外交に詳しいジャーナリスト西川恵さん著。日本の外交にとって、皇室がどれほど大きな存在かを国賓のもてなし、両陛下の外国訪問の事例をあげて解説した本。

2016年10月発行。

所感

「外交」って政治活動のことなのに、皇室外交って言葉おかしくない?

皇室は政治と関係ないでしょ?

と思って何気なく手に取った本でしたが、「はじめに」で一気に引き込まれ、前のめりで読み切ってしまいました。

ちなみに、外交に携わる人の間では、皇室が外交資産であるというのは共通認識なんですね。

天皇や皇族の外国訪問も「公的行為」と位置づけることによって、政府判断で皇室を外交に(誤解を恐れずに言えば)「使う」ことができるようになった。これによって皇室が外交資産としての価値と役割を高めたのは疑いない。「皇室は日本にとって最高の外交資産」というのは外交に携わる者が異口同音に言うことである。日本の首相が何度訪問しても成し得ない和解や友好関係の強化を、両陛下が訪問することで可能にした例は少なくない。

本書は、私に日本のことをいかに知らないかを痛感させました。

汗顔の至りでございます。

とともに、

今上天皇(もうすぐ退位されますが)、美智子妃殿下のお人柄がわかる記述に、たびたび目頭が熱くありました。

皇室って今までまったく興味なかったのですが、俄然興味を持つようになりました。

外国から見ると、天皇は日本のエンペラーなんですよね。

事実、外国の新聞では政治面で扱われるようです。

本書は、皇室は日本の外交にとって最大の資産であるということを、フランス、オランダ、カナダ、サイパン、パラオ、フィリピン等への訪問を事例として挙げながら解説しています。

本書を読むと、外交という面における天皇のパワーは総理大臣以上だなということを率直に思ってしまいます。

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宮中晩餐会では、なぜフランス料理が出されるのか、なぜ誰に対しても最高級のワインを振る舞うのかについての解説から始まります。

外交においては、招く相手によって対応を変える国が多いようですが、日本は誰に対しても最高の対応をする。

日本でも首相官邸での賓客もてなしには差をつけるようです。

ここに天皇のおもてなしに対する姿勢が表れているのです。

では、なぜ宮中晩餐会では誰に対しても同じもてなしをするのか?

賓客のもてなしに差をつけてしまうと、政治や外交の脈絡で見られてしまう可能性があるという現実的な理由もあるでしょう。

しかし、それ以上に、天皇のポリシーということでしょう。

身分や立場の違いにかかわらず、だれに対しても公平・平等に接する、というポリシー。

国内での被災地訪問などで見る天皇・皇后両陛下の国民に対する接し方を見ていれば、このポリシーが心からのものなんだなあと確信できますよね。

そんな話から、来日した国賓へのおもてなしの話が紹介されます。

前アメリカ大統領オバマの来日の話題。

オバマが両陛下に深々とお辞儀をする姿勢が本国で批判されたことがニュースになりましたね。

でも、オバマの皇室への敬意は本物だったのです。

さらに、モロッコのモハメド6世、ベトナムのチュオン・タン・サン大統領、フィリピンのアキノ大統領などの賓客の話。

国賓をもてなすのに、なぜ和食ではなく、フランス料理とフランス産ワインなのかについては、鹿鳴館精神の名残りがあるからだそうです。

明治の時代はフランスのやり方が西洋の外交儀礼の模範となっていたんですね。

現代なら、外国の賓客も和食でもてなしたほうが喜ぶのではないかと思うのですが、和食のコースは品数が多いし、食器もさまざまな形のものをたくさん使うので、食事の時間が長くなってしまうというデメリットが大きいようです。

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日本では、皇室はあくまで相手の要望に沿ったもてなしをします。

一方、外国では、たとえばフランスの場合、2016年にイランのロウハニ大統領がフランスを公式訪問した際、事前の準備でイラン側は饗宴にワインのボトルを出さないように依頼しました。

しかし、フランス側は

「飲む飲まないは自由だが、フランス側が飲むことに異議は唱えないでほしい。饗宴でワインを出すのはエリゼ宮のルールである」

と拒否しました。

イランは納得しません。

フランス側はお酒を出さずにすむ朝食会を提案しましたが、イラン側は

「歓迎のもてなしとして軽すぎる」と拒否。

結局、食事会は開かれないことに。

この事例を読んで考えました。

国際政治の舞台で、相手国の要望をのむということは、相手に屈するというイメージを持つのかもしれません。

国のメンツを重視することが大切という考えでしょう。

「郷に入っては郷に従え」という考えと、「国のメンツが大切」という考えのどちらが正しいということはありません。

でも、日本のおもてなしってやっぱりすごいなと。

もうひとつ思い浮かんだのが、植物の話。

どういうことかというと、

自然界で、植物は、昆虫や鳥に食べられる存在です。

自然界で暮らす動物は、天敵から身を守るために、体内に毒を生成して食べられないようにしたり、擬態して身を守ったりと、天敵の攻撃を防ぐために進化します。

しかし、植物は違いました。

食べられることを防ぐのではなく、むしろ昆虫や鳥に蜜や子房を食べさせるように呼び込み、昆虫や鳥に花粉を運ばせる役目を負わせたのです。

敵の攻撃を利用して、自らの利益を勝ち取ったということです。

自分の利益を優先する前に、相手に先に利益を与えることで、お互いに利益を得ることができる関係を築いたのです。

フランスとイランの食事会のやり取りの話を読んでいて思い出したことです。

日本で皇室が、相手の要求に合わせることで、自国の利益を得ようという考えがあるはずはないのですが、結果的に皇室のもてなしのほうが、賢いんでないの?と思ったということです。

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ここまでは、日本へ訪問した国賓をもてなす側としての話でしたが、これ以降、天皇皇后両陛下が外国を訪問されたときの話が続きます。

その中で感動したのが、オランダ訪問の話と、今上天皇が皇太子時代(19歳の頃)、西欧諸国を半年かけて外遊した話。

オランダに反感を持っている日本人ってあまりいないでしょう。

むしろ、素敵な国、旅行したい国と考えているのではないでしょうか。

でも、戦後、オランダは反日感情が大きかった国なんですね。

中学・高校で世界史の勉強はしましたが、こんなことを教えられた記憶はありません(忘れてるだけ?)

第二次世界大戦でオランダの植民地であるインドネシアを日本が占領したとき、オランダの民間人約9万人と戦争捕虜約4万人が強制収容所に連行されます。

そのときに、食糧不足や風土病で約2万2千人が亡くなりました。

死亡率は約17%に上り、シベリア抑留で亡くなった日本人捕虜の死亡率(約12%)を大きく上回る数字です。

こんなことがあれば、遺族の日本に対する感情が激しく厳しいものになるのは当然です。

実際、1971年に昭和天皇がオランダを訪問した際には大規模なデモが起こり、昭和天皇の乗った車のフロントガラスに魔法瓶が投げつけられたそうです。

そんなオランダ人の反日感情を和らげていったのが今上天皇と美智子妃殿下なのです。

今上天皇が皇太子時代の19歳のときに、西欧外遊を行い、オランダにも訪問しています。

それ以来、オランダ王室との関係を築きます。

親交を深めていくことで、オランダ国内の世論も日本に対する感情が和らいでいくのです。

これって多分、日本の総理大臣が何度訪問しても実現できないだろうなと感じます。

元首や大統領は任期がくれば交代しますが、天皇や国王はそうではありません。

王室には家族ぐるみのつきあいがあるんですね。

皇室の外交ってこんなパワーがあるんだと心底感嘆しました。

皇太子時代の今上天皇が西欧外遊中には行く先々で反日感情があることを感じていました。

父である昭和天皇はなぜ戦争を止められなかったのかという思いがあったでしょう。

だからこそ、日本のことを日本人のことを誰よりも深くお考えなのだということが伝わってきます。

本書を読んで、恥ずかしくなるくらい日本と日本の歴史を知らないことがわかってしまいました。

これからもっと近代、現代日本の歴史を知りたいと思わせてくれた本書に感謝です。

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あと1ヶ月で「平成」が終わります。

今上天皇が願ったであろう平成な30年間であったことが何よりです。

次はどんな時代になるのか楽しみです。

目次

第1章 宮中晩餐会では「だれに対しても最高のものを」がルール
第2章 昭和と平成、皇室2代にわたるミッテランとの友好
第3章 皇室外交の要としてのおことば オランダの反日感情を融和した両陛下
第4章 美智子妃とヴァレリーさんの頬ずり フランス3代の大統領と皇室
第5章 英王室と皇室の長く深い縁 戦中、戦後の恩讐を超えて
第6章 終わりなき「慰霊の旅」 サイパン、パラオ、フィリピン
第7章 国際政治に寄せる両陛下の関心 歌に込められたその思い

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